Home / 恋愛 / 唇に触れる冷たい熱 / ハムスター見に来ないか? 3

Share

ハムスター見に来ないか? 3

Author: 花室 芽苳
last update Huling Na-update: 2025-07-27 20:01:21

 何となく照れ臭い雰囲気のまま、御堂《みどう》の運転で彼のマンションへ。御堂が部屋のカギを開けると、チェストの上に置いてあるハムスターのケージから、カシカシ……という音が聞こえてくる。

「アイツ、俺が帰ってくるといつも《ああ》なんだよ」

 ケージから御堂に向かって、一生懸命手招きをするようなハムスターの仕草に思わず笑ってしまう。

「あら、御主人様が帰ってきてくれたのが嬉しいんじゃないの? とても可愛いらしいじゃない」

「アイツは俺の事を、餌をくれる人間としか認識していなさそうだがな。まあいい、紗綾《さや》もおやつをやってみるか?」

 そう言って御堂が渡してきたのはスティック状の袋で、赤いフルーツの模様がとても可愛いけれど。私がそれを手に持ったまま戸惑っていると、御堂が切り口を開けてもう一度私に持たせた。

「ほら、そのまま茶太郎《ちゃたろう》に食わせてやってくれ」

「茶太郎? この子の名前は、茶太郎って言うの?」

 言われてみれば、このハムスターの毛色は茶色と白だけど。そのままの名前の付け方なのが御堂らしい。

 ハム太、ハム助なんてつけてもいても、彼ならばなんらおかしくないような気がするし。

「茶太郎ちゃん、おやつですよー?」

 声をかけながらおやつをケージに近付けると、すぐに寄ってきてくれる茶太郎。私が差し出したおやつをペロペロ、モグモグと食べてくれている。

 あまりペットを飼ったことのない私は、その可愛さに興奮してしまい……

「ねえねえ、見た? すぐに食べたわよ? 凄い、可愛いわね!」

 なんて、御堂の腕を掴んで一人ではしゃいでしまっていた。そんな自分に気が付いて急いで御堂から手を離したのだけれど。

「茶太郎《コイツ》よりも、俺の隣で喜んでいる恋人の方が何十倍も可愛いが?」

「そ、そんな事をいちいち言わなくていいの!」

 いつもこうなのよ! 自分の言葉や行動より、その後に御堂の言葉に真っ赤にならなきゃいけないんだから。

「ほら、紗綾。食いしん坊な茶太郎が残りを早くよこせって言ってるぞ?」

「あ、ごめんね。茶太郎ちゃん」

 慌てておやつを茶太郎に食べさせると、全部綺麗に食べてくれた。茶太郎はおやつをもらってご機嫌なのかスリスリと頬を触らせてくれた後、奥に引っ込んで出て来なくなって。

「……もしかしてお腹いっぱいで寝ちゃった?」

 動物の事に詳しくない私には分からな
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 5

     ――EPILOGUE―― 「ねえ、要《かなめ》はどっちが良いと思う? どうしてもこの二着から、一つを選べなくて」  私達は結婚式に向けてウエディングドレスを選ぶために、式場連携のドレスショップに来ている。要からのプロポーズを受けて、あれよあれよと結婚の話がどんどん進んで今のこの状況。  なによりも驚いたのは、こういうのを苦手そうな彼の方が積極的にブライダルフェスを見て回った事で。選ぶのは私に任せてくれたけれど、意外な一面を見た気がしたの。  並べられた二つのドレスを眺めると、要は迷いもなくこんな事を言い出した。 「迷うのならばどちらも着ればいいんじゃないか? なんならオーダーメイドのウエディングドレスを作っても俺は全く構わないが」 「……そういうことじゃなくてぇ」  要らしい発言にちょっと脱力してしまう、私が聞きたいのはどちらが彼好みで私に似合っているのかという事なのだけれど。全て私の事優先で物事を考える要は、いつもこうなのでちょっと困る。 「ああ、どちらが似合うかという事ならば答えは簡単だ。紗綾《さや》ならばどちらを着ても似合うに決まっている」 「もう! またそんなことを真顔で……」  そんな私達のやりとりに、ドレスを見せるために立っていたスタッフの方もクスクスと笑ってしまって。要はそういう事を全く気にしないから、私一人で恥ずかしがることになるのだ。  試着を済ませてショップを出ると、もう夕方近い時間になっていて。どこかで夕飯を食べていこうという話になったので、最近お気に入りのイタリアンの店に決めた。 「それにしても両親に挨拶をしに行って、すぐに結婚式の準備をすることになるなんてね。反対どころか大賛成なんだもの『こんな娘で良いんですか?』なんて、失礼しちゃうわよ」 「俺はかなり緊張してたんだがな、相手に気にいられようと必死になるのなんて初めてだったかもしれない」  確かにあの時は普段の彼よりずっと笑顔が多くてお喋りだった気もする、家に帰ってからぐったりしてて面白かったけれど。  今思えば、あの時に要が『準備が必要だ』って言っていたのはそういう事だったんだろうけど。私は全く気が付かなくて、この人をヤキモキさせていたに違いない。 「結局ドレスは一つに決めていたが、それで良かったのか?」 「ええ、良いの。一番大事なのは、誰の隣でそのド

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 4

     私をベッドに座らせたまま、要《かなめ》はゆっくりと歩いて目の前に来ると静かにその場に跪いた。何故そんな事をするのか分からずにいる私の前に、そっと彼が小さな箱を差し出して……「……っ!!」 ここまでされて、今の状況が分からない筈はない。慌てて要を見れば、彼はとても真剣な表情で私をジッと見つめている。まさかの展開に一気に緊張が押し寄せて、なにも言葉が発せなくなって。 これから起こることを期待して、ゴクリとつばを飲み込んだ。「長松《ながまつ》 紗綾《さや》さん。俺と結婚してもらえませんか?」 要らしい、セオリー通りのプロポーズだけど彼が本気なのは十分伝わってくる。きっとさっき言ったように色々考えて、悩んでのこのセリフなのだと。 熱いまなざしでジッと私の返事を待つ彼の目の前に、私はそっと左手を差し出した。その指輪を、貴方の手で指に付けて欲しいという意味を込めて。 その行動に込められた気持ちを理解し、黙ったままの要が私の手を取ると細身の指輪をスッとつけてくれた。「とても素敵、嬉しいわ……」「そうか」 キラリと輝くダイヤのついた、細身のプラチナリング。派手なものをあまり好まない私のために、あえてシンプルなデザインにしてくれているみたい。 要のそんな私を想ってくれる心が嬉しくて、凄くほわほわとした気分になる。「それにしても……いきなりプロポーズされるなんて、想像もしなかったわ」「そう言うな、俺だってこの時のために色々考えてはいたんだ。だが紗綾があまり鈍い発言ばかりするから、つい……」 少し拗ねたような表情でそんな事を言うから、余計に胸の中が熱くなるじゃない。 要が何度も私の薬指を触って、サイズを確認していたのは気付いていたの。でもきっとまだまだ先の事だと勝手に思い込んでて。 この人が中途半端な気持ちで私と付き合い同棲してるとは思っていなかったけれど、二人の将来を真面目に考えていてくれたことがとても嬉しい。 要の過去にも現在にも、そして未来にも私がずっと隣に居れるんだって。「ずっと大切にするって、約束してね?」「ああ、誰より何よりも大事にする。だから俺の傍でそうやって微笑んでいてくれ」 そっと私の頬に触れる大きな手、要の顔が静かに近付いてきて優しく口付けられる。 今も変わらない、唇に触れる貴方の熱は少し冷たいように感じるけれど……本当は

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 3

    「これからは思い出の私も目の前にいる私も、大事にしてくれるんでしょう?」「そんなの当然だろう、俺にとって一番大切なのはいつだって紗綾《さや》なんだから」 そんな甘い言葉を当たり前のことのように言いながら、要《かなめ》は優しく私の身体を抱きしめ返してくれる。こうしている時間が一番心が満たされる気がするし、なによりも幸せだと思う。 以前の私では考えられなかった事だけど、もうこの人のいない未来なんて想像出来ないくらいなの。「……ところで、紗綾のお母さんから俺宛に伝言があると言っていたが。それはどんな内容なんだ?」「あら、そっちはすっかり忘れてたわ」 そのために彼をこの部屋に呼んだのに、ついついいつものような時間に酔ってしまっていて。そんな私を要は少し呆れたような表情で見ている。彼はしっかり覚えていて、手紙の内容がかなり気になっていたのだろう。 机の上に置いたままになっていた二通の手紙、その片方の封筒を手に取って要に渡した。手紙の内容は私も知らないけれど、そこに悪い事が書いてあるとは思ってはいない。 鋏《はさみ》を渡すと要は丁寧に端を切り、中の便せんを取り出して静かに読み始める。さっきとは違い、今度は読み終えるのを待っている私の方がソワソワしてしまって。「……要、お母さんはなんて?」 やはり手紙に何が書いてあったのかが気になって、黙ったまま便箋を封筒に戻している要に聞いてしまう。反対されるとは思っていないけれど、どんな反応なのかは知りたくなるもの。 そう落ち着かない気持ちで、返事を待っていると……「そうだな、近いうちにきちんとご両親に挨拶へ行く必要があると思う」「ああ、それはそうね。お母さんは要がどんなふうに成長したのかを、凄く気にしていたから」 子供の頃、私は彼の家庭事情を全く知らなかったけれど両親は気付いていたはずだ。口には出さなかったけれど、両親はきっと要の事もずっと気になっていたに違いない。 今のこの人を見れば二人も安心するでしょうし、出来るだけ早く会いに行った方が良いのかも?「それじゃあ来週の休みにでも会いに行きましょうか? 私からお母さんに時間が取れるか聞いて見るから」「……お、おい? ちょっと待て、紗綾」 スマホを取り出して母の番号をタップしようとすると、慌てた表情の要にスマホを取り上げられて。珍しく焦っているみたいだけど

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 2

     自分用に部屋を用意してもらっているけれど、普段は要《かなめ》と一緒にリビングで過ごすことが多い。ここに来てまだほとんど使ってないベッドに腰かけて、荷物の中から取り出した目的の物をパラパラとめくっていく。 両親が大切に保存してくれていたようで、二十年近く経つのに中の写真はほとんど色褪せてはいなかった。このアルバムを開くのは学生の時以来だったかしら? つい最近まで存在もすっかり忘れていたというのに、こうして見てみると懐かしさに心がジンとしてくる。「ふふ、本当に昔の面影を探す方が大変なんだから……」 幼い頃の要をみると、自然と笑みが零れてしまう。再会した時に、彼が誰だか分からなかったのも仕方ないと思ってしまうもの。 そんな事を考えながら、一枚一枚の思い出に浸っていると部屋の扉がノックされた。「……入るぞ、紗綾《さや》」「ええ、どうぞ」 彼は私が返事をするまで決して扉を開けようとはしない、一緒に暮らしてもちょっとした気を使ってくれるのは有難くもある。 部屋に入ると私が座っている隣に腰かけ、手元に開いているアルバムを覗き込む要。「何を見てるんだ? ずいぶん楽しそうだが……ん、これはまさか俺なのか?」「ふふ、そう貴方よ」 そう答えると途端に要が驚いた表情を見せるから、可笑しくて笑っちゃったの。無言でアルバムを捲っていく彼を眺めているのも結構楽しいかも?「まさか、俺のガキの頃の写真があるなんて……自分の手元には一枚も残ってなかったから、かなり驚いた」「そうね。うちの母は、思い出は宝物だって言うような人だから」 要の育ってきた環境や境遇を考えれば、写真が残さず処分されていてもおかしくない。そう思ったからこそ、私はこのアルバムを母に頼んで送ってもらったのだから。 お互いにうろ覚えの記憶でも、二人の思い出を重ね合わせればその時の光景が浮かぶかもしれないって。「懐かしいな、こうしてみると俺にもこんな子供の頃があったのかと不思議な気分になる」「そう? この頃の要は女の子に間違えられるくらい可愛かったじゃない、そういうのも全部忘れちゃったの?」 ちょっと揶揄《からか》ってみると、要は苦虫を噛み潰したような顔をする。どうやら幼い頃に何度も性別を間違えられたことを、本人は結構気にしていたのかもしれない。 ……でも本当にあの頃の要は可愛くて、私が守ってあげ

  • 唇に触れる冷たい熱   思い出の先を紡いで 1

    「ただいま」「おかえり、紗綾《さや》。昼過ぎに実家のお母さんから、何か大きな荷物が届いてたぞ」 要《かなめ》と二人で暮らすマンションに仕事から帰って来れたのは二十時過ぎ。まだまだ不慣れな事もあるが、少しずつ自分が担当する業務も増えて残業する日も少なくない。 今日の要は有給消化で強制的に休みを取らされている、そうでもしないとこの人はちっとも休もうとしないから。「ああ、それは私がお母さんに頼んでおいたの。まだ残してあるって聞いて、久しぶりに見たくなって」「残してあるって、何の話だ?」「……ふふ、まだ内緒」 彼は中身を気にしているようだが、今は秘密にしておきたい。見る前に取り上げられたりしては、せっかく母に頼んだ意味がなくなるものね。 早く開けて確認したいけれど、疲れたしお風呂にも入りたいなと考えていると……「夕飯と風呂の準備は出来ているから、先に湯船に浸かってサッパリしてくるといい」「嬉しいわ、ありがとう」 互いの休みが重ならないときは、こうやって家のことなどをしている事が多い。彼も休みを好きに使えばいいのに『紗綾と一緒でなければ、外に出る意味はない』と。 再会した幼馴染の意外な執着愛に戸惑う事もあったけど、今はそれすら愛おしいと感じれる。それくらい要との日々は喜びに満ちているから。 入浴をすませリビングに戻ると、テーブルには既に食事が並べられていて。その美味しそうな香りに、一気に空腹を感じてお腹がくうっと音を立てた。 そんな私に要は早く座って食べろと目で合図してくるから、先に席について彼が座るのを待って手を合わせた。「んん~、凄く美味しいわ。この秋ナスの肉詰め、ポン酢だとサッパリしてていくらでも食べれそう!」「少し多めに作ってしまったから、好きなだけ食べるといい」 分量を間違えたかのように彼は言うけれど、わざと多めに作っているって私は気付いてる。ここに来た当初はなかなか環境に慣れず、私の体重が少し減ってしまったから。 でもそれもとっくに元に戻って、それどころか……「もう、ここ最近は体重が増えて困ってるって言ってるのに」「紗綾は元々が瘦せすぎているんだ、以前より少し増えたくらいが丁度良い」 何度言っても、こうやって受け流される。彼の料理が美味しすぎて、いつも食べ過ぎてしまう私も悪いのだけれど。 ……にしても、今日の要はいつも

  • 唇に触れる冷たい熱   上司と部下ではなく 4

    「今日からお友達、なんですよね? 私と主任、そして御堂《みどう》さんは」 嬉しそうに微笑んでその手を揺らす横井《よこい》さん、そんな彼女を見て少しホッとするの。今の私達ではこうしてあげるのが精一杯だけど、もし何かあった時は本社からでも飛んでくるから。 そう思っていると、どこからかスマホのメロディーが鳴りだした。すぐに動いたのは横井さん、バックの中からスマホを取り出して画面を操作している。「この人もなんだかんだで、相当捻くれた心配性なんですよね。ふふ……」 画面を操作しつつ何か楽しそうな雰囲気の横井さん、そんな彼女が気になり誰の事かを聞いてみると……「ああ、今のメールは伊藤《いとう》さんです。あの人、どうしてか私の番号を知ってたみたいで」「彬斗《りんと》君が? どうして海外にいるはずの彼が、今も横井さんと連絡を取ってるの?」 彬斗君の考えている事は、昔からよく分からないとこがある。けれど、横井さんを巻き込むような事はしないで欲しいのに。「大丈夫ですよ、私だってちゃんと伊藤さんの事は警戒していますから。でも彼は何故か私の愚痴を聞いてくれたりもして……」 予想外の二人が仲良くなっている事に私と要は戸惑いを隠せなかったけれど、当の横井さんは彬斗君を愚痴吐き相手と見ているみたいで。 梨ヶ瀬《なしがせ》さんにはあんなに苦手意識を見せてるのに、彬斗君は平気だなんて横井さんもよく分からないところがあるわ。 「今夜は紗綾《さや》さんを私が独り占めしていいんですよね、御堂さん?」 予約していたホテルの部屋、要《かなめ》と眠るはずのダブルベッドの上で横井さんは私に抱きついている。 彼女は要と正々堂々と勝負をして、私と一緒に眠る権利を手に入れたのだった。 普段はすんなり諦める要だけど今日はよほど諦めがつかないのか、部屋の端のソファーに陣取ったままでもう一つの部屋へと移動する様子はない。「全く、御堂さんも諦めが悪いですよ? 紗綾さんとはいつでも一緒に眠ってイチャイチャベタベタ出来るんですから、今日くらい私に譲ってくれて良くないですか?」 遠回しに要に向かってさっさと部屋を出て行けと伝える横井さん。もちろんそんな彼女に要が黙っているはずもなく……「横井さんは俺たちが空港に着いてからは、紗綾を散々独り占めしてると思うが?」 バチバチと音を立てて睨み合う

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status